2015年1月11日日曜日

非常時局読本(第十八回)「共産主義の基礎をなす平等観」

非常時局読本 海軍少将 真崎勝次著
慶文社 昭和14年3月15日発行

101ページより

十八、共産主義の基礎をなす平等観

 次に所謂平等観をもって正義だと思っているのが共産主義になるのである。ところが実際現在の世の中には一つも平等なるものはない、ないから総ての現実を否定して来る。現実を否定して来るから現状を破壊しなければならぬ。そこで革命になるのである。しかして共産主義、社会主義の特徴は自己の反省というものが一つもないのである。自分が貧乏しているのは自分の能力が足らぬということや、或は自分の努力が足らぬことを反省しないで、これは皆社会制度が悪いと言って、何でも罪を人に被せるのが特徴である。同じ戦で負けても、昔の日本武士は自分の修行が足らぬから負けた、こういう風に自己反省をして、そうして努力をする。また敵ながら天晴だと言って敵の良い所を誉めている。そしてその良い所を自分で学んで屈せずにまた起ち上がる。こういうのが所謂日本精神である。真の共産主義というものは、一九二〇年頃ロシア革命の直後これを行った。ところがご承知の通り忽ちにして大飢饉になって数百万の人が死んでしまうようなことで実際には之は立ち行かない。つまり皆が楽にはならず皆が乞食になるのであって、立ち行かないか色々看板をかえて新経済政策と称し、新々経済政策、或は第一次五ヶ年計画、第二次五ヶ年計画といって、鈍重なるロシア人を誤摩化し羊頭を掲げて狗肉を売っているのである。列国に対してもまた国民に対しても今更共産主義は悪いとは言えないから所謂新経済政策、新々経済政策と称して所謂統制経済をやっているのである。(計画の長所は見る必要がある)故に本当の共産主義即ちマルクスやエンゲルス、或はレーニン、トロッキーが言ったような共産主義というものは、私の見る所では実際上は世界に存在しない。観念上或は学術上でそういう共産主義というものはあるけれども、実際に彼等が考えておったように貨幣制度もやめる、銀行も止めるというような共産主義を実行できるものと思っている者は一人もないと思う。之はロシアの実験ではっきり分かった次第である。もっとも西洋では二十歳代に社会主義にならぬ者は心臓がない、熱がない、頭がない、又三十過ぎまで社会主義を称える奴は馬鹿だというような噂もあるけれども、共産主義は今のようにロシアで実験済みである。だから世界中でロシア人が一番共産主義にはもう懲り懲りしている。しかしまた革命になって悲惨な思いをするよりよいと考えているのが真相である。さりながら共産党だけは一国一党主義でやっている。彼等は是をいけないと言う時は自分の首が飛ぶ時であるから、詮方ない訳である。本当に之が良いと思っている者は一人も居らぬと思う。今日の実情は所謂一国一党で国家管理、極端なる統制でもってやっている有様である。之がスターリンの共産主義である。これ以上のことをやろうとすると直に飢饉に襲われて人民が死んでしまうから出来ない相談である。私は共産主義の基礎を成す平等観というものは、むしろ日本人が今日一番強いのではないかということを憂えている次第である。また日本人には社会政策と社会主義の区別のつかぬ者が多いのである。

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