2014年5月18日日曜日

非常時局読本(第三回)「欧米模倣と日本精神の喪失」

 第三回です。人の思考の根底に「思想」がありますが、普段私たちはそれを全く意識せずに生きています。「皇道派」(二二六青年将校を除く)の人達はこの「思想」が大切であり、西洋の国家社会主義、ルソーやマルクスの思想、過度な自由主義思想に対しても、危機感を持っていました。これらは現代にも繋がる問題です。一緒に考えてみましょう。

非常時局読本 海軍少将 真崎勝次著
慶文社 昭和14年3月15日発行

11ページより

三、欧米模倣と日本精神の喪失

 誰も自分は日本精神を失っていると自分で考えている者は一人もないであろうと思うが、しかしながら良く詮索してみると、本当に日本精神に目覚めている人は実は甚だ少ないのである。それは従来の教育の仕方も大いに悪い、国体の本義を明らかにする事に力が足らず、また交通の発達や通信の便宜のために外国の影響を受けた所も大いにあって、建国の本義に即する即ち宇宙の生成化育の原理に則る日本精神を真に理解し体得しているものは少ないのである。
 かくの如く日本人は日本精神を忘れて外国かぶれしているのに、実に面白い皮肉な事には、日本人の大部が御師匠さんの様に尊敬するドイツのヒットラーはあのように自分が成功してみると、いつまでも今日の隆盛を続けて行きたいというのが人情であるから、どうすれば今の隆盛を続けて行かれるか、これがためにその根本の指導原理を知りたくなって、彼の股肱の臣を日本に派遣して日本精神を研究さしたという事である。これは誰が考えても世界を見渡したところ日本以上に永遠に栄えて行く歴史を持つ国、即ち指導原理を持っている国はないのであるから、先ず日本を手本にしようと考えて日本に使者を派遣したのは当然である。ところがその報告の中に「現代の日本人には日本精神無し、ただ歴史の中には日本精神がある。即ち日本人の血の中にはまだ日本精神がある」ということを言っているそうである。かくの如くドイツのヒットラーは日本精神を研究して、日本の指導原理を真似したいと思っているのに、日本人の方はドイツの指導原理を学ぶとい今日の非常時が解決されて行くかのように考えている人がたくさんあるようである。日本人には何でも外国のものはよく見える癖がある。明治維新後外国模倣を主としたために外国のものとさえ言えば何でもよい様に考え、上等は舶来だと合点しておったからであろうが、実はその点が日本に非常時を招来し世の中を混乱に陥れている所の有力なる一つの原因だと確信する。もっともヒットラーの使者は本当は日本精神というものが、どういうものであるかということは、真には到底認識は出来なかったであろうと私は思う。ただ日本に来て調べてみたが、何処を見渡して見ても特別なものはない、皆外国同様のものばかりである。何等今日の日本には特長はないから、これによって、今の日本人には日本精神はないということを報告したものだと考える。本当の国体の尊厳建国の理想から発達し宇宙の生成化育の真理そのものを理想とし信念とし、義においては君臣の差別あり、情においては父子の関係にて無差別の心境にある日本精神を解する者は、前に述べたように日本人中にも少ないのであるから、外国人には本当に理解する事は中々難しい事と考える。とにかく日本が全く外国化したという報告は、それは偶然にも日本の現状につき穿ったことをいっていると考える。これは我々に取って何処までも頂門一針であって、大いに鑑みなければならぬ点であると信ずるのである。
 またかつてフランスの新聞記者が数年前に日本の国情を調査して、日本の現在の指導原理は何処にあるのか一向に判らぬ。この分で日本が進んでいると日本は共産主義の国になるのじゃないか、あるいはファッショ国になるのじゃないかと、非常に疑問を持って首を捻って研究をしたそうであるが、この人は日本の当時の指導原理は一つも分からぬけれども、明治天皇が軍隊に賜ったところの御勅諭が日本の指導原理となっているようだと、こうく報告をしているそうである。かくの如く外国人の方が日本の特異性について非常に注意しているのである。一体思想というといかにも抽象的のものであって、それが火花を散らしたり戦争の原因になったりするかと考えるけれども、思想の衝突即ちそれは文化の衝突融合であって恰も陰陽の電気が合して火花を散らすのと全く同じような現象が起こるのである。一体思想というものが人間の基であって万事の基礎をなし考え方を指導し或は行いの基調を支配しているのである。故に思想のない者には指導原理はない、また批判力もない、理想も信念もない。今日新聞を読んでも、或は各種の出来事を見ても、思想のない者は正しい判断がつかない、正しい理解が出来ない。そこが非常に危険な所である。これを艦船の運航に例えて言うと、いわゆる思想というものは恰も艦の操艦術や舵のようなものである。そこでもし艦に舵がなくまた艦長や船長が操艦の術、あるいは如何なる進路を進むべきかということを知らないで、漫然と船に全馬力をかけさせて、全速力を出して走って行ったならば、船は直に 擱岸、座礁、大衝突の運命になることは、すぐ想像のつくことである。しかも機関の馬力が大なれば大なるほど、速力が早ければ早いほど、その損害は大きいのである。自動車について考えてもその通りであって、運転手が操縦術を知らないと、その自動車の機械の馬力が大きければ大きい程、速力が速ければ速い程、その事故の大きいことは見やすい道理である。それと同様に一国の舵を取る所の首脳部、政治家が思想について正しい認識がないということになると、その結果は国が直ちに非常時になるという訳である。国内数次の不祥事の原因も、また今次の戦争の原因も、帰する所は首脳部を始めとして有識者に思想の分からないというところに非常時の真の原因があるのである。言い換えると真の日本精神を理解せざる者あるいはこれを失ったという所に、今日の非常時の原因があるのである。

次回に続きます。

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